## 私的複製の限界 ##

著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条)。何度見ても分かりにくい説明ですがさすがに法律もそこは自覚していて,ちゃんと小説,音楽,舞踏,彫刻,建築,地図,映画,プログラムなどを例示しています(10条)。
著作物を創作する者を著作者といい(2条),著作者は著作者人格権(公表権,同一性保持権など)と著作権(複製権,上演権,頒布権など)を享有します(17条)。
著作権法著作権の一つに複製権を定めています(21条)。つまり著作者の了承を得なければ著作物のコピーは出来ません。
ところが著作権法は一方で利用者の利便性などにも配慮しており,著作者の権利を一部制限しております。
著作物であっても,私的使用のためのコピー(30条)や公正な慣行に合致する形で行われる引用(32条)が許されるほか,障害者,教育,図書館等,入試,裁判,報道や論評のために複製などが許されています。
前振りが長くなりましたが私的使用のための複製の限界はどのあたりにあるのでしょうか。
法は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」を「私的利用」と定義して,私的使用にあたる限りにおいては複製を認めています。
文化庁のサイトで公開されている著作権テキスト25年版によれば
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1 家庭内など限られた範囲内で,仕事以外の目的に使用すること
2 使用する本人がコピーすること
3 誰でも使える状態で設置してあるダビング機(当分の間は,コンビニのコピー機など「文献複写」のみに用いるものは除く)を用いないこと
4 コピーガードを解除して(又は解除されていることを知りつつ)コピーするものでないこと
5 著作権を侵害したインターネット配信と知りながら,音楽や映像をダウンロードするものでないこと
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を私的使用に該当するための条件としています。
「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」でどこまでが許されるかは限界事例は費用対効果などから訴訟になりにくいためか,裁判所の見解はよく分からないところではあります。

「社内の同好会とかサークルのように10人程度が一つの趣味なり活動なりを目的として集まっている限定されたごく少数のグループ」であれば「家庭内その他これに準ずる限られた範囲」に該当するとの解説もあり(加戸守行 著作権法逐条講義 著作権情報センター),仕事に関わらない利用で仲の良い少人数なら問題はないようです。
私的使用が争われた裁判として舞台装置設計図事件がありますので関係する箇所を末尾に引用しておきます。
私的複製の限界は意外と厳しいように感じますが,違法コピーが出回って著作者が正当な利益を得られない世の中も殺伐としていて嫌ですよね。


損害賠償請求事件 〔舞台装置設計図事件〕昭和52年 7月22日  裁判所名  東京地裁
「 そこで、被告らの抗弁について、検討するのに、被告らは、第一設計図の複製図面は被告らにおいて、自社用資料として、使用する目的のものであったから、その複製については、原告の許諾を得る必要がない旨主張する。ところで、著作権法第三〇条によれば、著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には、その使用する者が複製することができる旨が規定されているが、企業その他の団体において、内部的に業務上利用するために著作物を複製する行為は、その目的が個人的な使用にあるとはいえず、かつ家庭内に準ずる限られた範囲内における使用にあるとはいえないから、同条所定の私的使用には該当しないと解するのが相当である。
 しかして、本件においては、すでに判示したところからすれば、被告らは、会社における内部的利用のために第一設計図の複製をしたことが明らかであつて、その複製行為は、同法第三〇条所定の私的使用には該当しないから、原告の許諾を得る必要がないということはできない。したがつて、被告らの抗弁は、理由がない。 」
文化庁テキスト
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/text/pdf/h25_text.pdf